高齢のご家族が入院したとき、歯みがきや入れ歯の手入れが後回しになったり、噛めないために食事やリハビリが進みにくくなったりすることがあります。入院中にご家族ができる口のケアと、動けるうちに整えておきたいことを、訪問歯科の経験もある市川市本八幡の歯科医師が解説します。
入院した家族のお口のことで、こんな心配はありませんか
- □ 入院中、ちゃんと歯みがきできているのか気になる
- □ 入れ歯を持っていかなかった、または外したままになっている
- □ 病院の食事が「刻み食」になり、ほとんど残している
- □ 入院中に入れ歯が合わなくなった、なくしてしまった
- □ 自分の親も、歯が数本しかない。入院したらどうなるのか不安
骨折、肺炎、脳の病気。高齢期の入院は、ある日突然やってきます。入院すると、治療のあと体力の回復とリハビリへ進みますが、その前提になっているのが「口から食べて栄養をとれること」です。
訪問歯科の現場で見てきたこと
私は4年間、訪問歯科診療に携わってきました。そのなかで、入院してから初めて「この方は噛めないのでは」と気づかれる場面に何度も立ち会いました。
骨折で入院された高齢の女性は、リハビリに向けて食事の形を変えようとしたとき、歯が数本しか残っておらず、入れ歯も使っていないことがわかりました。下の歯が上の歯ぐきに当たって傷ができている状態でした。抜歯をして入れ歯を作り、食事ができるように慣らしていくまでに、半年ほどかかりました。
残っている歯が数本しかない。入れ歯はあるけれど合わなくて何年も引き出しの中。痛いので外したまま。こうした状態は、決して珍しいものではありません。病院や施設では食事を刻んだりミキサーにかけたりできますが、それは噛む力の代わりにはなりません。
噛めないことが、回復に影響する理由
1.必要な栄養をとりきれない
体の回復には、たんぱく質をはじめとする栄養が必要です。噛めないと、肉や魚、野菜など噛みごたえのある物を残しがちになり、おかゆや麺類にかたよりやすくなります。
2.口から食べる生活に戻るまで時間がかかる
口から十分に食べられない間は、点滴などで栄養を補う必要があります。体を守るための大切な処置ですが、口から食べる生活に戻るまでには、それだけ時間がかかります。
3.リハビリの土台になる体力が戻りにくい
リハビリは体を動かす訓練です。動くためのエネルギーと、筋肉の材料になる栄養が足りなければ、思うように進まないことがあります。
研究で報告されていること
リハビリ医療の分野の報告では、入院している高齢の方のお口の問題が、体の働きの回復、入院期間、自宅への退院、入院中の死亡と関連することがまとめられています。また、歯科衛生士によるお口の管理を行うことで、お口の状態や飲み込む働き、栄養状態だけでなく、日常生活の動作や自宅への退院にもよい結果がみられたと報告されています。
介護施設に入所している高齢の方を対象にした研究では、毎食後の歯みがきと週1回の専門的な口腔ケアを行ったグループで、肺炎の発症や発熱が少なかったとも報告されています。
ただし、これらは入院や施設での取り組みの報告で、すべての方に同じ結果が出るわけではありません。
入院中のお口のケア、ご家族ができること
入院中は、治療が優先され、歯みがきや入れ歯の手入れが後回しになりがちです。口から食べていない時期は唾液が減り、かえって口の中が汚れやすくなります。
入院のときに持っていくもの
- ・歯ブラシ(やわらかめ)と、残っている歯が少ない方は歯間ブラシ
- ・入れ歯を使っている方は、入れ歯そのものと、入れ歯専用のケース・ブラシ・洗浄剤
- ・入れ歯のケースには名前を書いておく(紛失を防ぐため)
面会のときに確かめたいこと
- ・歯みがきや入れ歯の手入れを、ご本人ができているか。できていなければ、病棟の看護師さんに相談する
- ・入れ歯を外したままになっていないか。長く外していると、あごや歯ぐきの形が変わって合わなくなることがあります
- ・食事を残していないか、痛がっていないか、口の中に傷や腫れがないか
- ・気になることがあれば、病院に歯科があるか、歯科の往診を頼めるかを病院に確認する
入院中に入れ歯を作ることはできる?
病院に歯科がある場合や、歯科の往診を受けられる場合は、入院中に調整や修理、作製を行えることもあります。ただ、痛む歯の処置や抜歯があれば歯ぐきが落ち着くのを待つ必要があり、型取りや調整を重ねて慣らしていくには時間がかかります。体調が万全でない入院中にこの工程をゼロから始めるのは、ご本人にとって大きな負担です。
だからこそ、動けるうち・通えるうちに
入れ歯を整えるには、次のような工程があります。
- 1.痛む歯や歯周病の処置、必要な抜歯
- 2.歯ぐきが落ち着くまで、仮の入れ歯で過ごす
- 3.型取り、噛み合わせの記録、仮合わせ
- 4.完成後の調整と、使いながら慣れていく期間
新しい入れ歯は、作った日から何でも噛めるわけではありません(慣れていく期間については【初めての総入れ歯、慣れるまでに起きること】)。ご自分の足で歯科医院に通えるうちに整えておくことは、歯の治療というより、これからの人生への備えだと考えています。
ご家族のために使ってきた時間を、少しだけご自分のために。親御さんの歯が心配な方は【親の歯が悪いまま年をとるのが心配な方へ】、噛めないことが体に与える影響は【入れ歯が合わず柔らかい物しか食べられない方へ】もあわせてご覧ください。
こんなサインがあれば、一度確認を
- □ ステーキ、おせんべい、たくあんなど、かたい物を避けている
- □ 食事に時間がかかる、丸のみしてしまうことがある
- □ 片側だけで噛んでいる
- □ 入れ歯を作ったが、痛くて使っていない
- □ 入れ歯のバネがかかっている歯が、以前よりぐらついてきた
- □ 抜けたままにしている歯がある
- □ 家族から「食べ方が変わった」と言われた
痛みがなくても、噛む力は少しずつ落ちていくことがあります。入れ歯が落ちる・噛めない原因については【総入れ歯が落ちる・噛めないのはなぜ?】をご覧ください。
自由診療の費用の目安(すべて税込)
保険の入れ歯は保険診療です。以下は自費をご検討になる場合の目安です。正確な金額は、診察と検査のうえでお見積りをお出しします。
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 無料メール相談 | 無料 |
| 来院相談(レントゲンでお口全体を確認) | 5,500円 |
| 精密検査・治療計画・お見積り | 33,000円 |
| 総入れ歯(上下顎同時印象法) | 上下 2,750,000円/片あご 1,430,000円 |
| レジリエンツテレスコープ | 1,650,000円〜2,970,000円(片あご) |
| コーヌステレスコープ | 1,810,000円〜4,120,000円(片あご) |
| リーゲルテレスコープ | 2,190,000円〜3,670,000円(片あご) |
| 金属床義歯(部分入れ歯) | 880,000円〜1,320,000円 |
- ・テレスコープ義歯の費用は、種類と支えになる歯の本数によって変わります
- ・むし歯・歯周病の治療や抜歯が必要な場合は、別途保険診療の費用がかかります
- ・完成後の調整は3回まで費用に含まれます。4回目以降の調整と、噛み合わせが安定したあとの定期メインテナンスは別途費用がかかります
- ・お支払いは一括のほか、3回に分けてお支払いいただくこともできます
- ・自由診療の費用は、医療費控除の対象になります
※2026年9月時点の費用です。改定する場合があります。
治療期間の目安
- ・保険の入れ歯 … おおむね1〜2か月
- ・自費の入れ歯(テレスコープ義歯・上下顎同時印象法の総入れ歯) … およそ6か月〜1年(抜歯後の治りを待つ期間を含む場合はさらにかかります)。治療中は仮の入れ歯を使っていただくので、歯がない状態で過ごす期間はありません
知っておいていただきたいリスク
- ・慣れるまで時間がかかります…装着当初は、違和感や発音のしにくさ、歯ぐきの痛みが出ることがあります。慣れるまでの期間には個人差があります
- ・通院が必要です…型取りや仮合わせ、調整のために何度か通っていただきます。ご家族の付き添いが必要になることがあります
- ・ご自身の歯と同じようには噛めません…食べ物によっては、切り方や調理の工夫が続けて必要なことがあります
- ・テレスコープ義歯では支えの歯を削ります…支えの歯も、将来むし歯・歯周病・破折などで失われることがあります
- ・あごの骨の変化は止まりません…年月とともに調整や修理、作り替えが必要になります
- ・お手入れが必要です…清掃が不十分だと、むし歯や歯周病、歯ぐきの炎症の原因になります
- ・自由診療全般…保険が使えず、費用は全額ご負担になります。ごく一部の金属で金属アレルギーが生じることがあります
よくあるご質問
Q. もう歯が数本しか残っていません。手遅れでしょうか
残っている歯が少なくても、その歯を支えとして活かせることがあります。歯がすべてない場合は総入れ歯でお作りします。まずは今の状態を確認させてください。
Q. 高齢の親を連れて行きたいのですが、通院が大変です
通院の回数や間隔も含めてご相談ください。ご家族の付き添いを歓迎しています。
Q. すぐに治療を決めなければいけませんか
いいえ。ご説明の内容をお持ち帰りいただき、ご家族と相談してから決めていただいて構いません。
Q. 痛みがないのですが、行く意味はありますか
噛む力の低下や歯周病は、痛みがないまま進むことがあります。痛みがないうちに確認しておくことに意味があります。
まとめ
- 1.入院中は、歯みがきや入れ歯の手入れが後回しになりやすく、口の中が汚れやすくなります
- 2.入院している高齢の方のお口の問題は、回復や退院と関連すると報告されています
- 3.入院のときは、入れ歯とケース・ブラシを持っていき、外したままになっていないか確かめましょう
- 4.入れ歯を整えるには時間がかかるため、通えるうちに準備しておくことが大切です
ご相談の流れ
- 1.ホームページの予約フォーム、またはお電話でご予約ください。ご家族からのご予約も承ります
- 2.今お使いの入れ歯と、お薬手帳をお持ちください
- 3.レントゲンでお口全体を確認し、今の状態と考えられる選択肢をご説明します(来院相談 5,500円)
- 4.考えられる治療それぞれの費用・期間・困る点をお伝えします。お持ち帰りいただき、ご家族でご相談のうえでお決めください
まずはメールでという方のために、院長が直接お答えする無料メール相談もご用意しています。
参考文献
- ・Shiraishi A, Wakabayashi H, Yoshimura Y. Oral Management in Rehabilitation Medicine: Oral Frailty, Oral Sarcopenia, and Hospital-Associated Oral Problems. J Nutr Health Aging. 2020;24(10):1094-1099.
- ・Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-433.
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療効果を保証するものではありません。治療の適応や結果には個人差があります。実際の診断・治療方針は、必ず歯科医師の診察を受けたうえでお決めください。
イーストワン歯科本八幡
住所:千葉県市川市八幡3-19-1
京成八幡WESTCOURT 2F
NEW
-
19.Oct.2026
-
【入れ歯の精密検査】...入れ歯治療の精密検査を勧められ、「何をされるの?」「痛い...09.Oct.2026
-
【口呼吸のデメリット...口呼吸は、体にどんな影響があるのでしょうか?口を開けて眠...16.Sep.2026
-
【入れ歯は入れて終わ...入れ歯や被せ物を入れた後、「痛くなったらまた行けばいい」...09.Sep.2026
-
【歯周病で抜歯後のイ...歯周病で歯を抜くことになった方へ。インプラントを選べるか...07.Sep.2026
-
【歯を抜いた日に入れ...歯を抜いた後、歯がないまま過ごす...04.Sep.2026
-
【歯がないまま放置す...歯がないまま放置するとどうなる?転倒・認知症と入れ歯の研...31.Aug.2026
-
【入れ歯と認知症の関...歯がほとんどなく入れ歯も使っていない人は、認知症の発症が...28.Aug.2026
CATEGORY
ARCHIVE
- 2026年10月2
- 2026年09月4
- 2026年08月6
- 2026年07月5
- 2026年06月5
- 2026年05月5
- 2026年04月2
- 2026年03月1
- 2026年02月1
- 2025年12月1
- 2025年07月2
- 2025年06月1
- 2025年05月1
- 2025年04月2
- 2025年02月2
- 2025年01月1
- 2024年11月2
- 2024年10月3
- 2024年01月3
- 2023年11月2
- 2023年10月2
- 2023年09月2
- 2023年08月2
- 2023年07月2
- 2023年06月1
- 2023年03月2
- 2023年02月2
- 2022年09月1
- 2022年08月1
- 2022年04月1
- 2022年02月4
- 2022年01月2
- 2021年11月1
- 2021年10月1
- 2021年09月2
- 2021年08月2
- 2021年06月4
- 2021年05月2
- 2021年04月12
- 2021年03月6
- 2021年02月1
- 2020年10月1