高齢のご家族が入院したとき、噛めないお口のままだと栄養が摂れず、リハビリが思うように進まないことがあります。本八幡の歯科医師が、訪問歯科診療の現場から見えてきた「入院と噛む力」の関係と、動けるうちにできる備えを解説します。
入院したとき、「食べられる口かどうか」を確認する人はいますか?
骨折、肺炎、脳血管の病気。高齢期の入院は、ある日突然やってきます。
入院すると、まず治療、そして体力の回復とリハビリへと進んでいきます。そのとき前提になっているのが「食事から栄養が摂れること」です。
ところが、入院してから初めて「この方は噛めないのでは」と気づかれるケースが少なくありません。残っている歯が数本しかない。入れ歯はあるけれど、合わなくて何年も引き出しに入ったまま。歯ぐきに当たって痛いので、外したまま過ごしている。
私は訪問歯科診療に4年間携わってきましたが、こうした場面は決して珍しいものではありませんでした。病院や施設の食事は「刻み食」「ミキサー食」に切り替えることができますが、それは噛む力の代わりにはなりません。
「自分の歯のことは、いつも後回しでした」
このブログを読んでくださっている方の中には、ご両親の介護を経験された方、いままさに介護中の方も多いのではないでしょうか。
親の通院に付き添い、子どもの用事に追われ、気がつけば自分の歯だけが後回しになっていた。前歯が欠けたまま何年も過ごしている。奥歯がないので、やわらかいものばかり選んでいる。人前で口を開けて笑うのが、いつからか苦手になった。
「痛くないから、まだ大丈夫」
「そのうち時間ができたら、ちゃんと治そう」
そう思いながら、10年、15年と過ぎてしまう。これは、私が診療室でとてもよくお聞きするお話です。
でも、その「そのうち」より先に、入院や骨折のほうが来てしまうことがあります。
噛めないお口が、回復の足を引っぱる4つの理由
なぜ「噛めるかどうか」が、入院やリハビリの場面でそれほど問題になるのでしょうか。理由は大きく4つあります。
1. 必要な栄養が摂りきれない
体の回復には、たんぱく質をはじめとする栄養が必要です。噛む力が落ちると、肉や魚、野菜といった噛みごたえのある食品を避けがちになり、結果としておかゆや麺類など炭水化物に偏りやすくなります。
2. 口から食べられないと、点滴や経管栄養が続く
口から十分に食べられない間は、補助的な栄養管理が必要になります。これは体を守るために大切な処置ですが、口から食べる生活に戻るまでには、それだけ時間がかかることになります。
3. リハビリの土台になる筋力が戻りにくい
リハビリは体を動かす訓練です。動かすためのエネルギーと材料が不足していれば、思うように進まないことがあります。噛む力そのものも、全身の筋力と無関係ではないと考えられています。
4. 入院が長引けば、負担も大きくなる
入院期間が延びれば、ご本人の体力的な負担も、ご家族の付き添いの負担も、費用の負担も増えていきます。
つまり「噛めるかどうか」は、歯だけの問題ではなく、回復のスピードに関わる全身の問題なのです。
入院してからでは、間に合わないことがある
「では、入院してから入れ歯を作ればいい」——そう思われるかもしれません。
しかし、実際にはそう簡単ではありません。
痛みや炎症のある歯があれば、まずその処置が必要です。抜歯をすれば、歯ぐきが落ち着くまで数週間から数か月待つことになります。そのうえで型を採り、入れ歯を作り、噛めるように調整を重ねていきます。新しい入れ歯は、作った日から何でも噛めるわけではなく、慣らしていく期間が必要です。
体調が万全でない入院中に、この工程をゼロから始めるのは、ご本人にとって大きな負担です。
だからこそ、動けるうち・通えるうちに整えておくことに意味があります。これは歯の治療というより、人生後半に向けた医療の備え、と考えていただくとわかりやすいかもしれません。
こんなサインが出ていたら、一度チェックを
次の項目に思い当たるものがないか、確認してみてください。
☑ステーキ・かたいお煎餅・たくあんなど、かたいものを避けている
☑ 食事に時間がかかる、丸のみしてしまうことがある
☑ 片側だけで噛んでいる
☑ 入れ歯を作ったが、痛くて使っていない/外している時間が長い
☑ 入れ歯のバネがかかっている歯が、以前よりグラグラしてきた
☑ 抜けたままにしている歯が1本以上ある
☑ 人前で大きく口を開けて笑うのをためらう
☑ 家族から「食べ方が変わった」と言われた
3つ以上あてはまる場合は、いまの噛む力が落ちてきているサインかもしれません。痛みがなくても、一度状態を確認しておくことをおすすめします。
入れ歯の選択肢を、公平に比べてみる
歯を失った部分を補う方法にはいくつかの選択肢があります。それぞれに長所と短所があり、「どれが正解」ということはありません。
① 保険の入れ歯(レジン床)
長所:保険適用で費用の負担が小さい。作製までの期間も比較的短い
短所:素材の厚みがあり違和感が出やすい。金属のバネ(クラスプ)が見えることがある。バネをかけた歯に負担がかかりやすい
② ノンクラスプデンチャー(自由診療)
長所:金属のバネがなく、見た目が目立ちにくい
短所:構造上、たわみやすく噛む力の伝わり方に限界がある。材質によっては修理や調整に制約がある。長期使用で残った歯への影響が出る場合がある
③ 金属床の入れ歯(自由診療)
長所:床が薄く作れるため違和感が少なく、熱が伝わりやすい
短所:バネを使う設計の場合、支える歯への負担は残る。費用は診察のうえご案内します
④ ドイツ式テレスコープ義歯(自由診療)
長所:バネを使わず、残った歯に内冠・外冠をかぶせて固定する設計。安定性が高く、残った歯への力を分散させる考え方に基づいている。歯を失った際に修理・増歯で対応しやすい
短所:支台となる歯を削る必要がある。治療期間が長く、費用も高額になる。適応かどうかは診査が必要
保険の入れ歯で問題なくお使いの方も、もちろんたくさんいらっしゃいます。大切なのは、いまの残っている歯の本数・状態と、これから何年その口で食べていきたいかを踏まえて選ぶことです。
当院のご提案:50代・60代からの「根本治療」
当院では、歯を1本ずつ場当たり的に治すのではなく、噛み合わせ全体を診たうえで、長く噛める状態をつくることを大切にしています。とくに50代・60代のうちにお口全体を整えておくことは、その後の20年、30年の食生活に関わってきます。
インプラントが難しいと他院で言われた方にも、残っている歯を活かすドイツ式テレスコープ義歯という選択肢をご提案できる場合があります。
費用の目安(自由診療・保険適用外)
部分入れ歯(テレスコープ義歯):
1,320,000円〜3,960,000円(税込)
総入れ歯(テレスコープ義歯):
1,320,000円〜2,860,000円(税込)
金額は、残っている歯の本数や設計、必要な前処置によって変わります。実際の費用は、診査・診断のうえでお見積りとしてご提示します。
※記載の費用は2026年8月のものです。今後、費用が変更となる場合があります。
治療期間の目安
抜歯や歯ぐきの回復を待つ期間、仮の入れ歯での調整期間を含め、おおむね数か月〜1年程度をみていただいています。お口の状態により前後します。
リスク・副作用について
・支台となる歯を削る処置が必要です
・治療中は仮歯・仮の入れ歯で過ごしていただく期間があります
・装着後、慣れるまでに時間がかかります。
・装着後も歯ぐきや骨は変化するため、定期的な調整・メンテナンスが欠かせません
・支台歯にむし歯や歯周病が生じた場合、再治療が必要になることがあります
自由診療のため、公的医療保険は適用されません(医療費控除の対象となる場合があります)
よくあるご質問
Q. もう歯が数本しか残っていません。手遅れでしょうか。
A. 残っている歯の本数が少ない場合でも、その歯を活かす設計が可能なことがあります。まずは現在の状態を確認させてください。
Q. 高齢の親を連れて行きたいのですが、通院が大変です。
A. 通院の可否・回数を含めてご相談ください。ご家族だけでの相談も承っています。
Q. すぐに治療を決めなければいけませんか。
A. いいえ。ご説明の内容をお持ち帰りいただき、ご家族と相談してから決めていただいて構いません。
Q. 痛みがないのですが、行く意味はありますか。
A. 噛む力の低下は、痛みを伴わずに進むことがほとんどです。痛みがない今こそ、確認しておく価値があります。
「まだ噛めるから大丈夫」のうちに
入院も骨折も、誰にでも起こりうることです。そしてそのときには、歯の治療にゆっくり時間をかける余裕はありません。
いま、ご自分の足で歯科医院に通えること。それ自体が、備えるチャンスがあるということです。
これまでご家族のために使ってきた時間を、これからは少しだけご自分のために。おいしく食べられること、人前で笑えること、旅行や会食を楽しめること。その土台になるのが「噛めるお口」です。
まずは今の状態を知るところから始めてみませんか。ご相談のご予約は、ホームページの予約フォーム、またはお電話で承っております。ご家族からのお問い合わせも歓迎です。
※本記事で紹介した治療のうち、テレスコープ義歯は自由診療(保険適用外)です。記載の費用は目安であり、実際の費用・治療期間はお口の状態により異なります。治療内容・リスクについては診査・診断のうえで個別にご説明します。効果には個人差があります。
イーストワン歯科本八幡
住所:千葉県市川市八幡3-19-1
京成八幡WESTCOURT 2F
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