歯がないまま放置するとどうなる?転倒・認知症と入れ歯の研究からわかること
歯を失ったまま入れ歯を使わずにいると、転倒や認知症の発生率が高いという研究報告があります。歯の本数と全身の健康にはどのような関係があるのか、国内外の研究をもとに解説します。千葉県市川市のイーストワン歯科本八幡です。
「奥歯だから見えないし」——そのままにしていませんか?
歯周病で歯がぐらついて抜けた。治療の途中で通えなくなった。作った入れ歯が痛くて、引き出しにしまったままになっている。
こうしたお話は、決してめずらしいものではありません。ご家族の介護やお仕事の都合でご自身の通院を後回しにされてきた方、「痛くないから急がなくていい」と考えてこられた方が、当院にもご相談にみえます。奥歯が何本かなくても、残った歯を使えば食事はできてしまいます。そのため「困っていない」と感じたまま、数年が過ぎることがあります。
けれども近年、歯を失ったまま何も入れていない状態が、お口の中だけの問題では終わらないことを示す研究が、国内外で相次いで報告されています。ここでは、その内容をできるだけ正確に——誇張せず、わかっていないことは「わかっていない」と書きながら——ご紹介します。
歯が19本以下で入れ歯を使っていない人は、転倒が約2.5倍という報告
日本の大規模な追跡調査(日本老年学的評価研究)から、次のような報告が出ています。
65歳以上で介護を必要としていない約4,400人を追跡したところ、歯が20本以上ある人に比べて、「歯が19本以下で、なおかつ入れ歯を使っていない人」は転倒の起こりやすさが約2.5倍だったというものです(Yamamoto T, et al. BMJ Open. 2012;2:e001262)。
この研究で注目したいのは、歯が19本以下であっても、入れ歯を使っている人ではその差が小さかったという点です。つまり関係していたのは「歯が減ったこと」そのものだけでなく、減ったあとに補っているかどうかでした。
高齢の方にとって転倒は、打ち身では済まないことがあります。太ももの付け根の骨(大腿骨近位部)を折ると、多くの場合は手術と入院が必要になり、受傷前と同じように歩けるまで回復しない方が少なくないことが国内の診療ガイドラインでも指摘されています。入院が長引く中で、生活の張りや認知機能が落ちてしまうことも心配されます。
認知症についても、同じ方向の報告があります
同じ研究グループが約4年間追跡した別の調査では、歯がほとんど残っておらず入れ歯も使っていない人は、歯が20本以上ある人に比べて認知症の発症が約1.9倍だったと報告されています(Yamamoto T, et al. Psychosom Med. 2012;74(3):241-248)。ここでも、歯が少なくても入れ歯を使っている人では、リスクの上がり方が小さいという結果でした。
ただし、これらは「原因の証明」ではありません
大切な前提をお伝えします。ここで挙げた研究はいずれも観察研究です。たくさんの人を追いかけて「歯が少なく入れ歯もない人に転倒や認知症が多かった」という関連を示したもので、「入れ歯を入れれば転倒しなくなる」「認知症を防げる」ことを証明したものではありません。
もともと全身の状態が良くない方は歯科に通うことも難しく、その結果として歯を失いやすい、という逆向きの関係も考えられます。研究では年齢や持病、収入などの影響をできる限り取り除いて計算されていますが、それでも「入れ歯を入れさえすればよい」という単純な話にはなりません。
当院は「入れ歯で転倒や認知症を予防できます」とはお伝えしません。お伝えできるのは、噛める状態を取り戻すことが、栄養や生活の幅を保つうえで意味を持つと考えられている、というところまでです。
なぜ歯と全身が結びつくのか——考えられている3つの道すじ
1. 食べられるものが減り、栄養が偏る
噛む力が落ちると、食事は自然とやわらかいものに寄っていきます。おかゆ、うどん、煮込んだもの。反対に減っていくのが、肉や魚などのたんぱく質、野菜や海藻などの食物繊維です。噛む力が弱い高齢の方ほど、たんぱく質やビタミン、食物繊維の摂取が少なく、炭水化物に偏りやすいことが複数の疫学調査で報告されています。
「入れ歯ではレタスのような薄い葉物が噛み切れない」というお話もよく伺います。よく合った入れ歯であれば食べられる範囲は広がりますが、それもきちんと調整され、実際に使えていることが前提です。
2. 筋肉が落ちる(サルコペニア・フレイル)
たんぱく質が不足すると、筋肉量は保てません。若い頃であれば多少歯がなくても筋力でカバーできますが、年齢を重ねるとその余力が小さくなります。食べる量と質が落ちる → 筋肉が減る → 動かなくなる → さらに食欲が落ちる、という悪循環は「フレイル(虚弱)」と呼ばれ、要介護の入り口として注目されています。
お口の働きのわずかな衰え(オーラルフレイル)に着目した国内の研究では、滑舌の低下、噛める食品の減少、むせ、噛む力の低下などが当てはまる人は、約4年後に身体的フレイルになる割合が約2.4倍、サルコペニア(筋肉量の減少)が約2.1倍、要介護認定を受ける割合が約2.4倍高かったと報告されています(Tanaka T, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73(12):1661-1667)。
3. 姿勢やバランスとの関係——ここはまだ研究の途中です
「噛み合わせが左右で崩れると身体のバランスが崩れて転ばやすくなる」という説明を目にすることがあります。噛み合わせと重心の揺れの関係を調べた研究は確かにありますが、結果は一致しておらず、現時点で「噛み合わせを整えれば転ばなくなる」と言い切れる段階ではありません。
当院としては、この点は断定せず、「関連を示す報告はあるが、まだ確かめられている途中である」とお伝えするのが誠実だと考えています。
「歯がないと骨密度が下がる」は、正確ではありません
歯の話題でしばしば語られる説明について、ひとつ訂正を含めてお伝えします。
確かなのは、歯を失った部分の顎の骨がやせていくこと(顎堤の吸収)です。歯の根が伝えていた力がなくなると、その部分の骨は少しずつ減っていきます。これは入れ歯を作るうえでも実際に問題になります。長く放置した部分は土手が平らになり、入れ歯が安定しにくくなるためです。
一方で、「歯がないから全身の骨密度が下がる」という因果関係は、確かめられていません。むしろ研究では、骨粗鬆症のある方は歯を支える骨も弱くなり歯を失いやすい、という逆向きの関連が報告されています。骨密度の低下と歯の喪失は、加齢・栄養・女性ホルモンの変化といった共通の背景を持つ、隣り合った現象と考えるほうが実態に近いといえます。
ただし、低栄養が骨にも筋肉にも良くないことは確かです。噛めないことが食事の偏りにつながるのであれば、その入り口の部分は歯科で対応できる範囲にあります。
入れ歯を入れれば大丈夫、ではありません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
先ほどの研究で差がついていたのは「入れ歯を持っている人」ではなく「入れ歯を使っている人」でした。痛くて外したまま引き出しに入っている入れ歯は、統計のうえでは入れていないのと同じ扱いになります。
さらに、イギリスで行われた無作為化比較試験では、新しい入れ歯を作るだけでは食事の内容はあまり変わらず、入れ歯とあわせて食べ方の助言を行ったグループで果物や野菜の摂取量が増えたと報告されています(Bradbury J, et al. J Dent Res. 2006;85(5):463-468)。
長く軟らかいものだけで過ごしてきた方は、噛める状態になっても、食べ慣れたものに手が伸びます。「作って終わり」ではなく、痛みなく使えるまで調整を重ね、何をどう食べるかまで一緒に考えること——これが、噛めるようにする、ということの実際です。
こんなサインがあれば、一度ご相談ください
・抜けたまま、または折れたままの歯が半年以上ある
・入れ歯が痛い・外れるので、食事のときだけ外している
・左右どちらか片側だけで噛む癖がついている
・肉や生野菜、りんご、たくあんを自然と避けるようになった
・食事の時間が以前より短くなった、または極端に長くなった
・食べこぼしやむせることが増えた
・滑舌が落ちた、聞き返されることが増えた
・外食や旅行に行くのが、お口のことで気が重い
3つ以上当てはまる場合は、お口の働きが落ち始めているサインかもしれません。歯が痛くなくても、歯科で確認する意味があります。
噛める状態に戻すための選択肢
入れ歯にはいくつかの種類があり、それぞれに向き・不向きがあります。費用の高い治療が常に良い、ということではありません。残っている歯の本数と状態、顎の骨の状態、そして何をどう食べたいかによって、適した方法は変わります。ここでは代表的な選択肢を、良い面と気をつけたい面の両方からご説明します。
保険の入れ歯(レジン床)
全国どこの歯科医院でも作ることができ、3割負担でおおむね数千円から1万数千円程度と、費用のご負担が軽く済みます。修理や作り直しがしやすいことも、実際には大きな利点です。
一方で、樹脂でできているため床(お口に触れる部分)が厚く、慣れるまで話しにくさや違和感を感じる方がいらっしゃいます。また部分入れ歯では金属のバネ(クラスプ)が必要になり、笑ったときに見えることがあるほか、バネのかかる歯に力が集中しやすいという構造上の性質があります。
ノンクラスプデンチャー
金属のバネを使わず、歯ぐきの色に近い樹脂で入れ歯を維持する方法です。バネが見えないため見た目が目立ちにくく、そこを重視される方に選ばれています。
ただし材質がたわみやすく、噛む力をしっかり支える構造ではありません。製品によっては、破損したときの修理が難しいものもあります。残っている歯を守る設計という点では向いていないため、当院では見た目のご希望を伺いながら、他の方法と比較してご説明しています。自由診療(保険適用外)となり、費用は診察のうえご案内します。
金属床の入れ歯
床の部分を金属で作るものです。樹脂に比べて薄く丈夫に仕上げられるため装着感が改善しやすく、食べ物の温度が伝わりやすいという特徴もあります。
ただし部分入れ歯の場合は、維持のためにバネを用いる設計になることが多く、バネのかかる歯への負担という点は保険の入れ歯と共通します。こちらも自由診療で、費用は診察のうえご案内します。
テレスコープ義歯(ドイツ式)
残っている歯に内側の被せ物をかぶせ、その上から入れ歯をはめ込む構造の治療です。バネを使わずに安定させ、噛む力を残った歯に分散させる設計になっており、ご自身で取り外して清掃できます。
一方で、支えとなる歯を削って被せ物を装着する必要があり、治療期間も費用も大きくなります。自由診療で、費用は片顎165万円から412万円(税込)です。種類と支えとなる歯の本数によって金額が変わります。
総入れ歯(自由診療の精密義歯)
歯が残っていない場合には、保険の総入れ歯のほかに、自由診療の総入れ歯(精密義歯)という選択肢もあります。型採りと噛み合わせの記録に時間をかけて製作するもので、費用は片顎143万円、上下で275万円(税込)です。
どれを選ぶかは、お口の状態とご希望で決まります
これらはいずれも「どれかが優れている」という関係ではありません。同じお口の状態でも、ご希望や生活の事情によって最適な答えは変わります。当院では、まず現在の状態を拝見したうえで、複数の選択肢をご説明しています。
テレスコープ義歯を検討される場合に、必ず知っておいていただきたいこと
・自由診療(保険適用外)です。費用は全額自己負担となります
・支えとなる歯を削り、被せ物を装着する必要があります
・治療期間はおおむね6か月〜1年程度。虫歯や歯周病の治療が先に必要な場合は、さらにかかります
・清掃が行き届かないと、支えの歯が虫歯や歯周病になることがあります。装着後も定期的な受診と清掃が必要です
・支えの歯の状態によっては、将来その歯を抜くことになる可能性があります
・金属を使用するため、金属アレルギーのある方は事前にお申し出ください
・慣れるまでは違和感があり、複数回の調整が必要です
・すべての方に適した治療ではありません。残っている歯の本数や歯周病の状態によっては、他の方法をご提案します
ご相談の流れ
1.無料メール相談 — 費用はかかりません。まずは状況をお聞かせください
もしくは
来院相談(5,500円・税込) — レントゲン撮影を含め、お口の状態を拝見して選択肢と概算をご説明します
2.精密検査・診断(33,000円・税込) — 模型・写真・噛み合わせの記録をもとに治療計画を確定します。入れ歯・噛み合わせの治療をお受けになる場合、この費用は治療費に含まれます
「まだ治療を決めていない」段階のご相談で構いません。歯が抜けたまま何年も経っている方ほど、早めに一度ご覧になっておく価値があります。
顎の骨がやせてしまうと、後から作る入れ歯の安定に影響するためです。
ご予約はホームページの予約フォーム、またはお電話で承っております。
よくあるご質問
Q. 何年も歯が抜けたままです。今からでも入れ歯は作れますか?
A. 多くの場合は可能です。ただし歯を失って時間が経つと顎の骨がやせ、入れ歯が安定しにくくなることがあります。まずは現在の状態を拝見させてください。
Q. インプラントはできないと言われました。
A. 骨の量や持病の関係でインプラントが難しい方もいらっしゃいます。その場合に、残った歯を支えとして活用する入れ歯が選択肢になることがあります。適応は診査のうえ判断します。
Q. 入れ歯を入れれば認知症や転倒を防げるのですか?
A. 防げるとはお伝えできません。記事でご紹介した研究は関連を示したもので、予防効果を証明したものではありません。噛める状態を保つことが食事や生活の幅を保つうえで意味を持つと考えられている、というのが現時点でわかっていることです。
まとめ
・歯を失ったまま入れ歯を使っていない人で、転倒や認知症の発生率が高いという報告があります
・ただしこれらは関連を示した観察研究であり、入れ歯による予防効果が証明されたわけではありません
・「歯がないと骨密度が下がる」は正確ではありません。確かなのは、歯を失った部分の顎の骨がやせることです
・差がついていたのは「持っている」ではなく「使えている」入れ歯でした
歯が抜けたままになっている、あるいは入れ歯が合わずに使えていないという方は、痛みがなくても一度ご相談ください
※本記事でご紹介した研究は、いずれも集団を対象とした観察研究または臨床試験であり、個々の方の結果をお約束するものではありません。
※テレスコープ義歯・自由診療の総入れ歯は自由診療(保険適用外)です。費用は全額自己負担となり、記載の金額は税込の目安です。治療内容により変動しますので、詳細は診察のうえご説明します。
※記載の費用・期間は目安であり、お口の状態により異なります。
※治療にはリスク・副作用があります。詳しくは本文中の記載および診察時のご説明をご確認ください。
イーストワン歯科本八幡
住所:千葉県市川市八幡3-19-1
京成八幡WESTCOURT 2F
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