【合わない入れ歯で食事ができないと体はどうなる?全身への影響と対策】市川市の歯科医師が解説

query_builder 2026/09/14

合わない入れ歯で食事ができないと、体はどうなるのでしょうか?


合わない入れ歯を使い続けると、噛めないことで食事の内容が偏り、栄養や体のバランスにも影響が及ぶことがあります。あごや残った歯に起きること、研究で報告されている転倒・認知機能との関連、そして今日からできる対策までを、市川市本八幡の歯科医師が順を追ってご説明します。

「入れ歯が合わないのは、年齢のせいだから仕方がない」——そう思って、何年もそのままにしていらっしゃる方は少なくありません。けれど、噛めない状態が続くことは、お口の中だけの問題ではないのです。


「食べられるもので済ませる」が、いつのまにか当たり前になっていませんか?


入れ歯が合わないとき、多くの方はすぐに歯科医院へ行くのではなく、まず食べ方のほうを変えます。

・お肉をやめて、ひき肉や豆腐にする
・ごぼうやれんこん、たけのこを買わなくなる
・りんごは丸かじりをやめて、すりおろす
・家族と同じ食卓でも、自分だけ別のやわらかい一品を用意する
・外食は「柔らかいものがある店」から選ぶようになった


ご自身では「工夫している」つもりでも、これは食べられる範囲がじわじわ狭くなっていくということでもあります。しかも、この変化はゆっくり進むので、ご本人ほど気づきにくいのです。

そして食事の楽しみが減ると、人と会う機会そのものが減っていきます。旅行や会食のお誘いに「歯が…」とは言いにくくて、なんとなく理由をつけてお断りする。ご家族の介護やお子さん・お孫さんのことを優先してきて、自分のことはいつも後回しにしてきた方ほど、この我慢を一人で抱えていらっしゃいます。

まずお伝えしたいのは、それはあなたの我慢が足りないからでも、年齢のせいでもありませんということです。入れ歯は、お口の変化に合わせて調整したり作り替えたりすることを前提とした装置です。合わなくなるのは、当たり前に起こることなのです。


合わない入れ歯を使い続けると、お口の中で起きること


1.噛む位置が定まらず、あごに負担がかかる


入れ歯が合っていないと、人は無意識に「痛くないところ」を探して噛みます。片側だけで噛む、下あごを少しずらして噛む、前歯だけで噛みちぎる——こうした噛み方が毎日続くと、あごの関節やその周りの筋肉に偏った負担がかかることがあります。

朝起きたときにあごがだるい、口を開けると音がする、こめかみのあたりが疲れる。こうした症状が出てくる方もいらっしゃいます。

ただし、ここは正確にお伝えしなければなりません。あごの関節の不調(顎関節症)は、噛み合わせだけで決まるものではなく、日中の食いしばり、睡眠、姿勢、ストレスなど複数の要因が重なって起こると考えられています。「合わない入れ歯が顎関節症の原因です」と言い切ることはできません。

けれども、噛む位置が安定しないことがあごに負担をかける要因のひとつになり得るのは確かです。だからこそ、私たちは入れ歯を作るときに、単に歯の形を再現するのではなく、あごが安定して噛める位置そのものを診ることを大切にしています。


2.残っている歯に、力の負担が集中する


部分入れ歯をお使いの方に、特に知っておいていただきたいことがあります。

部分入れ歯は、残っている歯にバネ(クラスプ)をかけて支えています。入れ歯が合わなくなって沈み込むようになると、そのたびにバネが支えの歯を横方向に揺さぶることになります。歯は縦方向の力には強い一方で、横に揺さぶられる力には弱い構造をしています。

その結果、支えている歯がぐらついてくる、歯ぐきが下がる、被せ物が外れる、最悪の場合は歯が割れてしまう——といったことが起こり得ます。残っている歯を守るための入れ歯が、かえって残っている歯を傷めてしまうという、なんとも皮肉な状態です。

そして支えの歯を1本失うと、入れ歯はさらに不安定になり、次の歯への負担が増える。この連鎖で歯を失っていく方を、私たちは実際に多く拝見してきました。


3.あごの骨(土手)がやせていく


歯を失った部分のあごの骨は、年月とともに少しずつやせていきます。これは自然な変化ですが、合わない入れ歯で特定の場所にばかり強い力がかかると、その部分の骨の変化が進むことがあります。

骨がやせれば入れ歯はさらに合わなくなり、合わない入れ歯がまた骨に負担をかける。この悪循環を止めるには、どこかの時点で「土台に合った入れ歯」に作り直す必要があります。


噛めないことと全身の健康——研究で報告されていること


ここからは、お口の外の話です。噛めないことが体にどう関わるのか、日本で行われた研究の報告をご紹介します。


転倒との関連


高齢者を対象とした日本の大規模な追跡調査(日本老年学的評価研究/BMJ Open, 2012)では、歯が19本以下で入れ歯を使っていない人は、歯が20本以上ある人と比べて、転倒の発生が約2.5倍多かったと報告されています。一方で、歯が少なくても入れ歯を使っている人では、その差が小さくなっていました。

噛みしめることは、とっさに体を支える動作と関係していると考えられています。ぐらつく入れ歯では、踏ん張りたい瞬間にしっかり噛みしめることができません。


認知機能との関連


同じ研究グループの報告(Psychosomatic Medicine, 2012)では、歯がほとんどなく入れ歯も使っていない人は、歯が20本以上ある人と比べて、認知症の発症が約1.9倍多かったとされています。こちらも、入れ歯を使っている人ではリスクが低い傾向が示されました。

よく噛むことが脳の血流と関係するという報告もあります。ただし、これらはあくまで「関連がみられた」という調査であって、噛めないことが認知症を引き起こすと証明されたわけではありません。噛めないから外出や会話が減り、その結果として…という間接的な道筋も考えられます。

それでも、「歯が少ない人でも、入れ歯を使っている人のほうがリスクが低かった」という点は、私たちにとって大きな意味を持ちます。噛める状態を保つことには意味があるということだからです。


お口の衰えと、体全体の衰え


東京大学の研究グループの報告(2018年)では、噛む力や舌の動き、食べこぼしといったお口の些細な衰え(オーラルフレイル)がある人は、その後に体の衰え(フレイル)や要介護状態、死亡のリスクが約2倍高かったとされています。

お口の変化は、体全体の変化の入り口として現れることがある。入れ歯の不具合を「たかが入れ歯」と考えないでいただきたい理由が、ここにあります。


こんなサインが出ていたら、一度ご相談ください


3つ以上当てはまる方は、入れ歯が今のお口に合っていない可能性があります。


□お肉、ごぼう、たくあんなど、噛みごたえのあるものを避けている
□食事に時間がかかる、または逆に飲み込むように食べてしまう
□いつも同じ側でばかり噛んでいる
□入れ歯安定剤を使わないと不安、使う量が増えてきた
□食べているときに入れ歯が浮く、動く、外れる
□歯ぐきに口内炎や傷ができやすい
□部分入れ歯のバネがかかっている歯がぐらついてきた
□「サ行」「タ行」が言いにくい、話しづらいと感じる
□外食や旅行に行きたくなくなった
□体重が半年で2〜3kg以上減った


最後の項目は、特に見逃せません。噛めないことによる食事量・食事内容の変化は、体重となって静かに現れます。



「やわらかい食事」で不足しやすい栄養素


噛めないと、食卓は自然と、おかゆ・うどん・パン・煮物といったやわらかく、糖質中心の献立に寄っていきます。減るのは、肉・魚・野菜。つまり、たんぱく質と食物繊維、ビタミン・ミネラルです。

骨はカルシウムだけでできているのではありません


骨折予防のためにカルシウムを、というお話はよく知られています。ただ、骨を鉄筋コンクリートの建物にたとえるなら、カルシウムはコンクリート、鉄筋にあたるのはコラーゲン=たんぱく質です。鉄筋の入っていないコンクリートがもろいように、たんぱく質が不足した骨は、カルシウムだけを増やしても強くなりません。

さらに、カルシウムの吸収を助けるビタミンD、骨の質に関わるビタミンKも必要です。ビタミンDは魚やきのこ、日光浴から。ビタミンKは緑の野菜や納豆から得られます。どれも「やわらかい食事」で減りやすいものばかりです。

筋肉も、たんぱく質からつくられます


転倒を防ぐのは、丈夫な骨だけではなく、体を支える筋肉です。年齢を重ねると、同じ量のたんぱく質を摂っても筋肉になりにくくなることが知られており、厚生労働省の食事摂取基準でも、高齢期のたんぱく質の目標量は若い世代より下限が高く設定されています。

噛めないから肉や魚が減る → たんぱく質が足りない → 筋肉と骨が弱る → 転びやすくなる → 骨折して動けなくなる。この道筋を、入り口である「噛めない」の時点で断ち切ることに、大きな意味があります。


今日からできること


歯科医院に来ていただく前でも、できることがあります


1,たんぱく質を毎食1品。卵、豆腐、納豆、ヨーグルト、しらす、ツナ缶。噛む力に不安があっても取り入れやすいものから。


2,やわらかくても噛みごたえを残す調理。肉は薄切りをそぎ切りにする、野菜は乱切りをやめて繊維を断つ方向に切る、圧力鍋でやわらかく煮てから食べる。「刻む」より「やわらかくする」ほうが、噛む回数を保てます。


3,
ひと口の量を減らして、意識してゆっくり噛む。


4,
痛いところを我慢しない。かばって噛むことが、あごや残った歯への負担になります。


5,入れ歯安定剤に頼りすぎない。安定剤は一時的な助けにはなりますが、合っていないという事実は変わりません。使う量が増えてきたら、それは受診のサインです。


ただし、正直に申し上げます。土台となる入れ歯が合っていなければ、食べ方の工夫だけで解決できることには限りがあります。 ここから先は、歯科医院の仕事です。


入れ歯には選択肢があります


「作り直す」といっても、選択肢はひとつではありません。それぞれに向き・不向きがあります。

種類 費用 主な利点 主な注意点
保険の入れ歯 保険適用 費用の負担が小さい。短期間で作れる。修理もしやすい 床が厚く、熱を感じにくい。バネが目立つことがある。支えの歯への負担がかかりやすい
ノンクラスプデンチャー 自費診療 金属のバネがなく見た目が自然 たわみやすく、支えの歯や歯ぐきへの負担が生じることがある。修理や調整に制約がある
金属床の入れ歯 自費診療 床が薄く、熱が伝わりやすい。食事の温度を感じられる バネで支える構造そのものは保険の入れ歯と同じ
ドイツ式テレスコープ義歯 自費診療 バネを使わず、残った歯に茶筒のように被せて支える。安定性が高い 支えの歯を削る必要がある。費用と治療期間がかかる。支えの歯を将来失う可能性はゼロではない


支えの歯が減ってきた方、何度作り直しても合わなかった方、他院でインプラントが難しいと言われた方には、残っている歯を活かして噛む力を取り戻す設計として、テレスコープ義歯という選択肢があります。


当院での治療の流れ・費用・期間・リスク


ご相談の段階


・無料メール相談:ホームページのフォームから。費用はかかりません
・来院相談 5,500円(税込):
レントゲン(パノラマ)を含み、お口の状態と考えられる選択肢をご説明します


自由診療の費用の目安(すべて税込)


・精密検査・診断 33,000円(税込):型取り・かみ合わせの記録などをもとに、治療計画を確定します。入れ歯・かみ合わせの再構成の治療に進まれる場合、この費用は治療費に含まれます
・ドイツ式テレスコープ義歯:片あご 1,650,000円〜4,120,000円(種類・支えとなる歯の本数によって変わります)
・総入れ歯:片あご 1,430,000円/上下 2,750,000円


※これらはすべて自由診療(保険適用外)で、費用は全額自己負担となります。診断のうえで総額を確定してご提示し、治療開始後に追加のご請求はいたしません。最新の料金は料金ページをご確認ください。


ドイツ式テレスコープ義歯(自費診療)



総入れ歯(自費診療)





治療期間の目安

おおむね半年〜1年程度が目安です。むし歯や歯周病の治療から始める場合はさらに期間がかかります。お口の状態によって大きく変わりますので、診断のうえで具体的な見通しをお伝えします。


リスク・副作用(必ずお読みください)


・テレスコープ義歯では、支えとなる歯を削る必要があります
・支えとなる歯も天然の歯である以上、将来的にむし歯・歯周病・破折などで失われる可能性があります
・新しい入れ歯に慣れるまで数週間かかることがあり、その間は複数回の調整が必要です
・装着当初は違和感や発音のしにくさが生じることがあります
・清掃が不十分だと、支えの歯にむし歯や歯周病が起こります。定期的な検診と清掃が欠かせません
・あごの骨は年月とともに変化するため、将来的に調整や修理、作り替えが必要になる場合があります
・使用する材料によっては、金属アレルギーが生じる可能性があります
・自由診療は医療費控除の対象となる場合があります。詳しくは所轄の税務署にご確認ください


よくあるご質問


Q. インプラントは難しいと言われました。


A. 骨の量や持病の関係でインプラントが適さない方はいらっしゃいます。その場合でも、残っている歯を支えとして活かす入れ歯という方法があります。当院にはそうした経緯でご相談にみえる方が多くいらっしゃいます。


Q. 歯がボロボロで、恥ずかしくて受診をためらっています。


A. その状態を責めることは決してありません。ご家族の介護やお仕事でご自身のことを後回しにされてきた方を、私たちは多く拝見しています。まずはメールでのご相談からでも構いません。


最後に


噛めないことは、食事の問題であり、栄養の問題であり、体を支える力の問題でもあります。研究で報告されているのは、歯を失っていても、入れ歯を使って噛めている人はリスクが低い傾向にあるということです。手遅れということはありません。

これからの時間を、食べたいものを食べて、人と会って、笑って過ごすために。まずは今の入れ歯がお口に合っているかどうかを、確認することから始めてみませんか。

ご相談は、当院ホームページの予約フォーム、無料メール相談、またはお電話で承っております。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断や治療効果を保証するものではありません。治療の適応・効果・リスクは個人差があり、診察のうえで判断いたします。記事中の費用はすべて自由診療(保険適用外)の税込価格で、変更となる場合があります。実際の費用は診断後にお見積もりとしてご提示します。


参考文献


・Yamamoto T, et al. Dental status and incident falls among older Japanese: a prospective cohort study. BMJ Open. 2012.
・Yamamoto T, et al. Association between self-reported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults. Psychosomatic Medicine. 2012.
・Tanaka T, et al. Oral Frailty as a Risk Factor for Physical Frailty and Mortality in Community-Dwelling Elderly. The Journals of Gerontology: Series A. 2018.
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準」

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