
- 入れ歯
【片側の一番奥の歯から連続2本ない場合の入れ歯について】現役歯科医師が解説します!
片側の奥歯が2本失ってもそのままにしている方が少なくありません。反対側の奥歯で噛むことができるので日常生活に支障がないのでしょう。しかし知らないうちにゆっくりと自覚症状なく病は進んでいます。いざ治療しようと歯医者さんに行ったら歯のない場所以外の治療もしなければならない、残っている歯を抜歯しなければ歯のない部分の治療ができないなどということになりかねません。このようにならないために早く歯科医院を受診して下さい。この記事を読んで歯科医師から説明される治療法と比較検討する際の参考にして下さい。
奥歯は親知らずを除くと上下左右に2本づつあります。他の歯に比べて噛みあう面の面積が広いのが見てみるとお分かりかと思います。この2本の奥歯は「大臼歯」と呼び根の本数が通常は上は3本、下は2本あります。この片側の奥歯が連続して2本を失った場合の入れ歯について説明します。
目次
1章 奥歯の役割
2章 奥歯を失うとどうなるか
3章 片側の一番奥から連続2本の奥歯を失ったときの入れ歯の種類とインプラント
4章 それぞれの部分入れ歯の特徴
まとめ
1章:奥歯の役割
1-1:かみ合わせを安定させる
奥から2番目の大臼歯は「6歳臼歯」とも呼ばれ6歳ころに最初に生えてくる大人の歯です。この「6歳臼歯」でかみ合わせを安定させこれからの生え変わりに備えています。奥から2番目の大臼歯で顎の位置を決め噛みあったときの高さを決めます。
1-2:食べ物をかみ砕く
大臼歯で食べ物をかみ砕きます。咬筋と呼ぶ強靭で太い筋肉が頬骨からちょうど大臼歯生えている付近の下顎骨に向かってあります。この筋肉が収縮すると大臼歯でかみ砕くことができます。かみ砕くことにより内臓に負担がかからず食べ物を消化できます。
1-3:歯並びを決める
正しい歯並びは奥歯を基準としています。この歯を失うことにより歯並びが崩れかみ合わせが悪くなり咬筋がうまく使われずそのため顔の輪郭の左右差が大きくなります。
1-4:身体のバランスをとる
我々は食べ物を噛むだけでなくかみしめることによって身体に力が入り様々な動作ができます。例えば立ち上がる動作でも嚙み締めます。重たい荷物を床から持ち上げるときにも食いしばります。大臼歯にはご自分の体重と同じもしくはそれ以上の力がかかります。奥歯で噛むことにより体の軸のバランスをとっています。左右の足でバランスをとっているのと同じように左右の奥歯でも身体のバランスをとっています。
2章:奥歯を失うとどうなるか
2-1かみ合わせが悪くなる
奥歯を失うと失った相対する歯が移動し失った側で噛みにくくなるのでかみ合わせが悪くなります。
2-2:胃腸に負担がかかる
奥歯はご自分の体重と同じかそれ以上の力かかります。1本失うことにより噛む力が30〜40%低下するといわれています。
かみ合わせが悪くなり噛みにくくなると食べ物をかみ砕くことが十分でなくなり胃腸に負担がかかります。
2-3:顔の見た目に影響する
奥歯を失うとかみ合わせの高さが短くなり顔の下顔面が短くなります。また片側のみ奥歯がない場合こちら側で噛むことができないため筋肉が使われず輪郭に影響します。
2-4:他の歯に影響する
奥歯を失うとその手前の小臼歯に負担がかかります。また歯並びも悪くなるので治療する際に歯並びを整えるため治す歯も増えていくことがあります。
2-5:身体のバランスに影響する
奥歯は左右で噛むことにより身体のバランスを保っています。奥歯を失うと身体のバランスを取ろうとして姿勢がゆがみます。例えば証明写真を撮るときに自分ではまっすぐに姿勢を取っているつもりでも写真家に「お顔をもう少し右に傾けて下さい。」などと直されたことはありませんか?自分では気づかないうちに姿勢がゆがんでます。よく水泳選手などスポーツ選手が歯列矯正をしていますが歯を失っていなくても歯によって身体のバランスが影響し歯並びを整えることによりパフォーマンスが上がることを理解しているのだと思います。
2-6:顎関節に影響する
顎の関節は耳の前辺りにありこの関節で下顎が開閉します。膝と違って左右バラバラには動きませんので片側の奥歯を失ってこの側の顎関節に異常をきたすと口が開きずらい、音が鳴るなどの症状が現れます。
3章:片側の一番奥から連続2本の奥歯を失ったときの入れ歯の種類とインプラント
片側の一番奥から連続2本の奥歯を失ったときの治療には大きく分けて部分入れ歯とインプラントがあります。部分入れ歯の種類とインプラント、それぞれのメリット、デメリットを説明します。
3-1:部分入れ歯
3-1-1:一般的な入れ歯(保険)
残っている歯にクラスプ(金属のバネ)を引っ掛けて外れないようにする入れ歯です。歯のない歯茎の部分は床(しょう)と呼ばれピンク色のプラスチックの素材でできています。その上に人工歯を並べます。
3-1-2:ノンクラスプデンチャー(自費)
クラスプ(金属のバネ)は使用せず入れ歯の床(しょう)と一体化したバネによって外れないようにする入れ歯です。金属が目立たないのが特徴です。商品名はバルプラスト、スマイルデンチャーなどいくつかあります。入れ歯の床(しょう)は一般的な入れ歯のものと違い弾力性があります。
3-1-3:テレスコープ義歯(自費)
金属のバネを使用せずに手前の歯に二重冠構造を施すことにより外れないようにする入れ歯です。テレスコープ義歯には主に3種類ありますが今回のテーマである片側の奥歯が2本ない場合のケースでは主にリーゲルテレスコープを適応します。
3-1-4:金属床の部分入れ歯(自費)
金属床の部分入れ歯はクラスプ(金属のバネ)を残っている歯に引っ掛けて外れないようにする入れ歯です。床(しょう)の一部に金属のプレートを使用します。
3-2インプラント(自費)
インプラントは失った歯の歯槽骨に人工の根を埋え土台を建て被せ物を装着する治療です。
3-3部分入れ歯とインプラントのメリット、デメリット
メリット デメリット 一般的な部分入れ歯 ・安価でできる
・取り外せるので衛生的・金属のバネが目立つ
・バネをかけている歯に負担がかかる
・慣れるまで時間がかかるノンクラスプデンチャー ・金属のバネが目立たない
・取り外せるので衛生的・バネをかけている歯に負担がかかる
・慣れるまで時間がかかる
・臭いを吸着しやすいテレスコープ義歯 ・入れ歯を入れていることが気づかれにくい
・装着したまま寝られる
・取り外せるので衛生的・残っている歯を削る インプラント ・見た目が良い
・取り外しの必要がない
・残っている歯を削らない・外科手術が必要
・糖尿病や骨粗鬆症などの全身疾患があるとできない
・顎の骨がないとできないことがある4章 それぞれの部分入れ歯の特徴
4-1 一般的な部分入れ歯(保険)
一般的な入れ歯は金属のバネを残っている歯に掛けます。片側のみに入れる入れ歯は違和感は少ないですが手前の歯に相当負担がかかります。健康な歯であっても揺さぶりの力がかかるので早期に歯を失ってしまいます。反対側に渡る入れ歯は片側のみの入れ歯より安定しバネをかけている歯はもちます。違和感はありますが慣れてきます。
片側のみの入れ歯です。
反対側に渡る入れ歯です。
片側のみの入れ歯はバネは手前の2本の歯にかかっています。反対側にに渡る入れ歯はバネは手前の歯1本反対側の2本、計3本の歯にかかっています。二つの入れ歯の揺さぶられた時、沈み込んだ時の歯にかかる負担を比較すると片側のみの入れ歯の方が負担は大きいです。入れ歯の大きさだけで入れ歯の設計を決めてしまうと早期に歯を失います。
4-2 ノンクラスプデンチャー(自費)
ノンクラスプデンチャーは金属のバネを使用せず床(しょう)と呼ぶ歯茎部分とバネが一体化になっている入れ歯です。
こちらの写真は奥歯3本ない部分に作製したノンクラスプデンチャーです。手前の2本の歯にバネをかけていましたがそのうちの1本の被せ物が外れてきました。入れ歯の下にあるのが外れた被せ物です。一般的な部分入れ歯と同様に片側のみの入れ歯はかなりの負担がかかると被せ物が外れる、天然歯の場合はぐらついてくるなどの悪影響があります。
4-3 テレスコープ義歯(自費)
テレスコープ義歯は支えの歯に二重冠構造を設ける入れ歯です。奥歯2本ない場合はテレスコープ義歯の主にリーゲルテレスコープを用います。
リーゲルテレスコープは特殊な鍵の開閉により入れ歯を出し入れします。
奥歯が2本なく手前の歯3本に内冠を入れた状態の写真です。
入れ歯をはめて鍵は開いている状態の写真です。
鍵を閉めた状態の写真です。
金属のバネが見えず一般的な入れ歯やノンクラスプデンチャーより噛むことができます。取り外して洗えるので衛生的です。また就寝時は装着したままお休みできます。
4-4:金属床の部分入れ歯
金属床の部分入れ歯はクラスプ(金属のバネ)を歯に引っ掛けて外れないようにしています。クラスプはRPIクラスプと呼ぶ引っ掛ける歯に負担が掛かりにくい構造のものを使うことがあります。この場合はこのクラスプと合わせて被せ物を作ると精度の良いフィットしたものが出来上がります。床(しょう)の一部に金属のプレートを使用することで一般的な入れ歯の床より薄くでき頑丈です。
こちらは左右の奥歯がない場合の金属床の部分入れ歯です。
まとめ
片側の奥歯が連続して2本ない場合の入れ歯には
1,一般的な入れ歯(保険)
2,ノンクラスプデンチャー(自費)
3,テレスコープ義歯(自費)
4,金属床の部分入れ歯(自費)
があります。
片側の一番奥から連続して奥歯が2本ないとブリッジと呼ぶ被せ物はできません。治療法の選択肢が少なくなります。その中でご自身に合った治療法を決めるにはそれぞれの治療法のメリット、デメリット、他の歯がダメになったときの治療法、ご年齢などを考慮し歯科医師と相談するのが良いでしょう。お知り合いの方が同じ場所、同じ本数の歯がないとしても口内の状態は個々に違いますので必ず歯科医院を受診し歯科医師の説明を受けることをお勧めいたします。その際にこの記事を参考にご活用下さい。
筆者プロフィール
イーストワン歯科本八幡
東 郁子■経歴
- 平成6年 鶴見大学歯学部 卒業
- 平成7年 鶴見大学付属病院研修医 修了
- 平成7年 都内の歯科医院 勤務
- 平成30年 イーストワン歯科本八幡 開院
■所属学会/スタディグループ
- ●IPSG包括歯科医療研究会
- 第2回咬合認定医コース受講 咬合認定医 取得
- 総義歯の基礎と臨床 受講
- 顎関節症ライブ実習コース 受講
- パーシャルデンチャーとテレスコープシステム 理論と実習コース 受講
- 咬合治療の臨床 受講
- ●日本臨床歯科医学会
- レギュラーコース 受講
- ●顎咬合学会