【なぜ、歯医者は良くないと知りながら保険の入れ歯を勧めるのか?】ある歯科医師の告白

query_builder 2026/02/18

「先生、一番いい入れ歯をお願いします。」

患者様からそう言われた時、多くの歯科医師の心には一瞬の葛藤が生まれます。本当に患者様のためを想うなら長期的に安定し残った歯も守れる世界標準の精密な入れ歯を提案したいのです。

でもまず保険の入れ歯があることの説明も必要です。


前回の記事では日本の入れ歯が歯科先進国ドイツでは「仮の歯」でしかないという衝撃的な事実とその長期的なリスクについてお伝えしました。読者の方からでは、なぜ日本の歯医者さんはそのリスクを知りながら保険の入れ歯を提供するのか疑問を抱かれる方もおられることでしょう。

それは決して私たちが勉強不足だからでも患者様の健康を軽視しているからでもありません。そこには日本の国民皆保険制度という素晴らしいシステムの光と影、そして歯科医師が日々直面している深く根源的なジレンマが存在するのです。

今回は普段は語れることの少ない歯科医師側の視点からその構造的な理由を率直にお話したいと思います。


理由1:制度の壁ー混合診療の原則禁止という巨大な足枷


日本の保険診療には混合診療の原則禁止という、一般の方にはあまり知られていないしかし非常に重要なルールがあります。


混合診療とは:保険が適用される診療(保険診療)と適用されない診療(自由診療)を一連の治療の中で併用することです。


これが原則禁止とされているため例えば、入れ歯の型どりは保険で、でも精密な入れ歯は自費で、という選択は許されません。

治療の一部に保険適用外の材料や技術を使うとその治療に関するすべてのプロセスが全額自己負担、自費診療になります。


保険の入れ歯:自己負担3割で約2万円

自費の入れ歯:数十万〜


患者様の負担を考慮すると保険診療の選択肢を提示せざるを得ない現実があります。



経済の壁:安すぎる診療報酬がもたらす負のスパイラル


もうひとつ根深い問題は保険診療の診療報酬、つまり国が定めた治療価格が国際的にみても極めて低く設定されていることです。

特に入れ歯や被せ物など歯科技工士という専門家の手作業が不可欠な治療においてこの問題は深刻です。


保険の入れ歯作製におけるコスト構造の現実


1、国から歯科医院への診療報酬:入れ歯製作に対して国から支払われる報酬は材料費、歯科医師の技術料、そして歯科技工士に支払う技工料のすべてを含んだ非常にタイトな金額です。


2、歯科医院から歯科技工所への支払い:その限られた報酬の中から歯科医院は歯科技工所に技工料を支払います。当然その金額も低く抑えざるを得ません。


3、歯科技工所の現実:低い技工料で製作を請け負う歯科技工士は生活のためにひとつひとつの作業に十分な時間をかけることができず数をこなさなければなりません。精密な作業よりもコストとスピードが優先される構造がここに生まれます。


この低すぎる診療報酬はまさに負のスパイラルを生み出します。


質の低下:歯科医師も歯科技工士も限られた時間とコストの中で保険のルールに則った最低限のレベルを満たすことがゴールになりがちです。歯科技工士の中には頑張って丁寧な仕事をする方もいらっしゃいますが、長期的な予後を考えたひと手間もふた手間もかかる精密な作業は経済的に報われません。


薄利多売のビジネスモデル:低い報酬をカバーするためには多くの患者様を診る薄利多売の経営モデルに陥りやすくなります。これによりひとりひとりの患者様とじっくり向き合い、自費診療の価値を丁寧に説明する時間的、精神的余裕が失われていきます。


多くの歯科医師はこの構造に問題意識を感じながらも日々クリニック経営を維持しスタッフの雇用を守るためにこのシステムの中で仕事をせざるを得ないのです。


結論:歯科医師の葛藤と患者様にできること


ここまでお話してきたように多くの歯科医師は長期的に見ればもっと良い治療があると知りながらも

1、制度の壁(混合診療の禁止)

2、経済の壁(低すぎる診療報酬による質の低下と薄利多売モデル)


というふたつの壁に阻まれて保険の入れ歯を提供しているのが実情です。

これは患者様の健康を願う専門家としての良心と経営者としての現実との間で常に引き裂かれるような葛藤です。

では患者様である皆さんはどうすればこの構造的問題から自分の身を守り最善の治療を選択できるのでしょうか?

その第一歩は自分の受ける治療について主体的に知ろうとすることに尽きます。

保険のできる範囲でと最初から決めつけずに歯科医師にこう尋ねてみてください。


「先生、もし保険の制約がなかったとしたら私にとって一番良い治療法はどんなものがありますか?」


その一言が歯科医師が「言いたくても言えなかった」最善の選択肢への扉を開く鍵となります。もちろん、最終的にどの治療法を選ぶかはご自身の価値観と経済状況に合わせて判断すれば良いのです。

大切なのはすべての選択肢を知ったうえで納得して決断すること。日本の素晴らしい国民皆保険制度の恩恵を受けつつもその限界を知り時には自らの意思でその限界を知り、時には自らの意思でその枠を超える。それこそがこれからの時代に求められる、賢い医療との付き合い方ではないでしょうか?


あなたの健康と未来はあなた自身が情報を得て選択することで守られます。

この記事がその一助となれば幸いです。



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