親の歯が悪くて食事がつらそう、でも歯医者に行きたがらない。歯の本数や入れ歯を使っているかどうかは、介護が必要になる時期や認知症との関連が研究で報告されています。帰省で気づける5つのサインと、歯医者を嫌がる親の誘い方を、訪問歯科の経験もある市川市本八幡の歯科医師がお伝えします。
親の歯のことで、こんな心配はありませんか
- □ 親の歯が悪くて、食事がつらそうに見える
- □ 実家に帰るたびに、口臭や入れ歯の具合が気になる
- □ 入れ歯を外したまま過ごしている
- □ 「痛くないから」と、何年も歯医者に行っていない
- □ 歯医者に連れていきたいけれど、どう説得すればいいか分からない
この記事は、親の歯を心配している子世代の方に向けて書きました。
私は訪問歯科で多くの高齢の方のお宅に伺い、また自分の父の介護も経験してきました。そのなかで、よく噛める方は食事を楽しみにされていて会話も弾む一方、噛めない・入れ歯が合わないままの方は、食事への意欲が落ち、外出や人との交流が少なくなっていく——そうした経過を見てきました。できるだけ最期まで、自分の口で食べて、自分らしく暮らしたい。これは私自身の願いでもあります。
歯の本数と「自立して暮らせる期間」
健康寿命とは
健康寿命とは、日常的・継続的な医療や介護に頼らず、自立した生活ができる期間のことです。厚生労働省が公表している最新の数値(2022年)は次のとおりです。
| 健康寿命 | 平均寿命 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 女性 | 75.45年 | 87.09年 | 11.63年 |
| 男性 | 72.57年 | 81.05年 | 8.49年 |
この差の期間は、何らかの手助けを受けながら暮らす年月にあたります。
歯が多く残っている人ほど、介護が必要になりにくい
日本の高齢者を追跡した研究から、歯の本数と介護の関係が報告されています。
- ・65歳以上の約4,400人を追跡した研究では、歯が19本以下の人は、20本以上ある人と比べて、介護が必要な状態になるリスクが約1.2倍でした
- ・65歳以上の約8万5千人を追跡した研究では、歯が20本以上ある人は、歯が1本もない人と比べて、介護が必要な状態に移るリスクがおよそ半分でした。85歳以上では、介護が必要な期間が1〜2か月ほど短いという結果でした
認知症との関連
65歳以上の約4,400人を4年間追跡した研究では、歯がほとんどなく、入れ歯も使っていない人は、歯が20本以上ある人と比べて、認知症の発症が約1.85倍多いという結果でした。
ただし、これらは「関連がみられた」という調査で、歯が少ないことが介護や認知症を引き起こすと証明されたものではありません。また、治療をすれば防げる、ということでもありません。それでも、しっかり噛めて、口の中を清潔に保てる状態は、これからの暮らしを支える土台のひとつだと考えています。噛めないことが食事や体に与える影響は、【入れ歯が合わず柔らかい物しか食べられない方へ】で詳しくご説明しています。
口の中を清潔に保つことと、肺炎
高齢の方の肺炎には、食べ物や唾液が気管に入って起きる「誤嚥性肺炎」が多く含まれます。口の中の細菌が一緒に気管に入ることが関係しています。
介護施設に入所している高齢の方を対象にした研究では、毎食後の歯みがきと週1回の専門的な口腔ケアを行ったグループで、肺炎の発症や発熱、肺炎による死亡が少なかったと報告されています。歯が残っている方にも、総入れ歯の方にも、口の中の清潔は大切です。
帰省や面会で気づける「親の歯が危ないかも」5つのサイン
毎日一緒にいると気づきにくい変化も、久しぶりに会う子世代だからこそ気づけることがあります。
1.食べる物が変わった、食事の量が減った
「最近やわらかい物しか食べない」「好物を残すようになった」。噛めなくなっているサインかもしれません。歯が痛い、入れ歯が合わないことを「年のせい」と思い込んで、口に出さない方は少なくありません。
2.口臭が強くなった
口臭の原因の多くは、歯周病やむし歯、入れ歯の汚れです。年齢とともに唾液が減ると、口の中を洗い流す働きが弱まり、細菌が増えやすくなります。
3.話し方が変わった、聞き取りにくい
歯を失ったり、入れ歯が合わなくなったりすると、発音に影響します。ご本人は気づいていないことも多い変化です。
4.入れ歯を使っていない、外したままにしている
「痛い」「合わない」「面倒」などの理由で、入れ歯を使わなくなる方がいます。使わないまま時間がたつと、あごや歯ぐきの形が変わり、久しぶりに入れようとしても合わなくなっていることがあります。噛めない状態が続くことも、食事や体に影響します。
5.何年も歯医者に行っていない
歯周病やむし歯は、痛みがないまま進むことがあります。「痛くない=問題がない」ではありません。最後に受診してから1年以上たっている場合は、一度確認をおすすめします。
ひとつでも当てはまれば、早めの受診を考えてみてください。入れ歯が落ちる・噛めない原因については【総入れ歯が落ちる・噛めないのはなぜ?】をご覧ください。
歯医者を嫌がる親を、どう誘うか
「歯医者なんか行かなくていい」「痛くないから大丈夫」。そう言う親をどう動かすかは、子世代のいちばんの悩みです。
うまくいきにくい伝え方
- ・「歯が悪いと認知症になるよ」と不安をあおる → かえって反発されやすい
- ・「なんで行かないの」と責める → 意地になって、余計に行かなくなる
- ・「予約しておいたから」と一方的に決める → 「勝手に決めないで」と怒られる
うまくいきやすい伝え方
- ・「一緒に行こう」と誘う…「私も検診があるから一緒に行かない?」と、自分も行く前提で誘う
- ・「見てもらうだけ」から始める…「治療する」ではなく「確認するだけ」と、ハードルを下げる
- ・入れ歯の不具合を入り口にする…「入れ歯の調子はどう?」と聞き、不満があれば「調整してもらうだけでも楽になるかも」とつなげる
- ・「体の健康診断と同じ」と伝える…「歯の健康診断だと思って行こうよ」
- ・かかりつけのお医者さんやケアマネジャーに相談する…第三者から「口の中も診てもらったら」と勧めてもらうと、受け入れやすい方もいます
高齢になると、口の中が変わりやすい理由
- ・唾液が減る…年齢やお薬(血圧の薬など)の影響で唾液が減ると、むし歯や歯周病が進みやすくなります
- ・手が思うように動かない…関節の痛みや手のふるえで歯みがきが難しくなり、磨き残しが増えます
- ・歯みがきの習慣が崩れる…「ちゃんと磨いている」と言っていても、実際には磨けていないことがあります
受診の前に、お薬手帳の準備を
骨粗しょう症の薬や、血液をさらさらにする薬など、飲んでいるお薬によっては、抜歯などの処置の前に確認が必要です。受診のときは、お薬手帳をお持ちください。
将来の介護も見据えて、治療を選ぶ
訪問歯科で多くの方のお口を拝見するなかで、「元気なうちの噛みやすさ」と「介護が必要になったときのお手入れのしやすさ」の両方を考えて治療を選ぶことの大切さを感じてきました。
| よい点 | 気をつけたい点 | |
|---|---|---|
| 入れ歯 | 取り外して洗えるので、介護する方もお手入れしやすい。残っている歯を抜くことになったときも、修理や作り足しがしやすい | 慣れるまで時間がかかる。合っていないと噛みにくい |
| インプラント | 固定されているので、しっかり噛みやすい | 手術が必要。介護が必要になると、周りを清潔に保つのが難しくなることがある |
どちらが正解ということではなく、今の年齢とお口の状態、これからの暮らし方で選びます。インプラントの費用は、骨の状態や必要な処置によって大きく変わるため、診察と検査のうえでご案内します。
当院でできること
- ・ご家族の付き添いを歓迎しています…ご本人の了承があれば、診察室への同席もできます
- ・久しぶりの受診でも責めません…まず今の状態を確認し、何が問題で、どこから始めるかを正直にお伝えします。ご本人のペースに合わせて進めます
- ・入れ歯の調整・作り直し…今お使いの入れ歯の調整から、しっかり噛める入れ歯への作り直しまで、お口の状態とご希望に合わせてご説明します
- ・定期的な検診とクリーニング…問題を早く見つけ、大がかりな治療を防ぐために、通い続けていただくことを大切にしています
総入れ歯の種類は【総入れ歯は主に7種類あります。】、歯が数本残っている方の入れ歯は【レジリエンツテレスコープとは何か】、新しい入れ歯に慣れるまでのことは【初めての総入れ歯、慣れるまでに起きること】でご説明しています。
自由診療の費用の目安(すべて税込)
保険の入れ歯は保険診療です。以下は自費をご検討になる場合の目安です。正確な金額は、診察と検査のうえでお見積りをお出しします。
| 項目 | 費用 |
|---|---|
| 無料メール相談 | 無料 |
| 来院相談(レントゲンでお口全体を確認) | 5,500円 |
| 精密検査・治療計画・お見積り | 33,000円 |
| 総入れ歯(上下顎同時印象法) | 上下 2,750,000円/片あご 1,430,000円 |
| レジリエンツテレスコープ | 1,650,000円〜2,970,000円(片あご) |
| コーヌステレスコープ | 1,810,000円〜4,120,000円(片あご) |
| リーゲルテレスコープ | 2,190,000円〜3,670,000円(片あご) |
| 金属床義歯(部分入れ歯) | 880,000円〜1,320,000円 |
- ・むし歯・歯周病の治療や抜歯が必要な場合は、別途保険診療の費用がかかります
- ・完成後の調整は3回まで費用に含まれます。4回目以降の調整と、噛み合わせが安定したあとの定期メインテナンスは別途費用がかかります
- ・お支払いは一括のほか、3回に分けてお支払いいただくこともできます
- ・自由診療の費用は、医療費控除の対象になります
※2026年9月時点の費用です。改定する場合があります。
治療期間の目安
- ・保険の入れ歯 … おおむね1〜2か月
- ・自費の入れ歯(テレスコープ義歯・上下顎同時印象法の総入れ歯) … およそ6か月〜1年。治療中は仮の入れ歯を使っていただきます
知っておいていただきたいリスク
- ・慣れるまで時間がかかります…装着当初は、違和感や発音のしにくさ、歯ぐきの痛みが出ることがあります。高齢の方は、慣れるまでの期間に個人差があります
- ・通院が必要です…型取りや仮合わせ、調整のために、何度か通っていただきます。ご家族の付き添いが必要になることがあります
- ・ご自身の歯と同じようには噛めません…食べ物によっては、切り方や調理の工夫が続けて必要なことがあります
- ・テレスコープ義歯では支えの歯を削ります…支えの歯も、将来むし歯・歯周病・破折などで失われることがあります
- ・あごの骨の変化は止まりません…年月とともに調整や修理、作り替えが必要になります
- ・お手入れが必要です…清掃が不十分だと、むし歯や歯周病、歯ぐきの炎症の原因になります
- ・自由診療全般…保険が使えず、費用は全額ご負担になります。ごく一部の金属で金属アレルギーが生じることがあります
よくあるご質問
Q. 親が「痛くないから大丈夫」と言って聞きません
歯周病やむし歯は、痛みがないまま進むことがあります。「治療するためではなく、確認するだけ」「健康診断と同じ」と伝えると、受け入れてもらいやすいことがあります。
Q. 親の歯が全部なくなっています。今さら歯医者に行く意味はありますか
あります。歯が1本もなくても、歯ぐきやあごの状態、入れ歯が合っているか、口の中が清潔に保てているかを確認することは大切です。合わない総入れ歯は、食事の内容に影響します。
Q. 高齢でも、新しい入れ歯を作れますか
年齢だけで決めることはありません。お口の状態、全身のご状況、通院していただけるかを伺ったうえで、合う選択肢をご説明します。
まとめ
- 1.日本の研究では、歯が少なく入れ歯も使っていない人に、介護や認知症が多いという関連が報告されています(原因と結果が証明されたものではありません)
- 2.口の中を清潔に保つことは、高齢の方の肺炎を減らすことにつながると報告されています
- 3.食事の変化・口臭・話し方の変化・入れ歯を使わない・長く受診していない、が気づきのサインです
- 4.歯医者を嫌がる親には、責めるより「一緒に行く」「確認するだけ」が伝わりやすい
- 5.治療は、今の噛みやすさと、将来の介護のしやすさの両方を考えて選びます
親の歯を守ることは、親の暮らしを守ることにつながります。「どう切り出せばいいか分からない」という段階でも、どうぞご相談ください。
ご相談の流れ
- 1.ホームページの予約フォーム、またはお電話でご予約ください。ご家族からのご予約も承ります
- 2.今お使いの入れ歯と、お薬手帳をお持ちください
- 3.レントゲンでお口全体を確認し、今の状態と考えられる選択肢をご説明します(来院相談 5,500円)
- 4.考えられる治療それぞれの費用・期間・困る点をお伝えします。お持ち帰りいただき、ご家族でご相談のうえでお決めください
まずはメールでという方のために、院長が直接お答えする無料メール相談もご用意しています。
参考文献
- ・Aida J, Kondo K, Hirai H, et al. Association between dental status and incident disability in an older Japanese population. J Am Geriatr Soc. 2012;60(2):338-343.
- ・Matsuyama Y, Aida J, Watt RG, et al. Dental Status and Compression of Life Expectancy with Disability. J Dent Res. 2017;96(9):1006-1013.
- ・Yamamoto T, Kondo K, Hirai H, et al. Association between self-reported dental health status and onset of dementia: a 4-year prospective cohort study of older Japanese adults from the Aichi Gerontological Evaluation Study (AGES) Project. Psychosom Med. 2012;74(3):241-248.
- ・Yoneyama T, Yoshida M, Ohrui T, et al. Oral care reduces pneumonia in older patients in nursing homes. J Am Geriatr Soc. 2002;50(3):430-433.
- ・厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」(2024年12月公表)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療効果や病気の予防を保証するものではありません。治療の適応や結果には個人差があります。実際の診断・治療方針は、必ず歯科医師の診察を受けたうえでお決めください。
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